蜂谷秀人「銀輪の国から16」

 後4時間程でツールがパリ・シャンゼリゼにやって来る。今年は本命無きレース進行だ
 ったが、アルプス最終日に独走でゴールしたサストレ(スペイン)が優勝することとな
 った。彼は昨年も4位だったのでフロックではなさそうだ。これでスペインはサッカー
 欧州カップ、テニスのウインブルドン、そしてツールを制覇したことになる。さて、ツー
 ルが終わると帰国である。気掛かりなのはユーロと円のレートだ。一応1ユーロ170円
 でざっと計算したが、ユーロがカード決算日に高くなると不必要な増額となる。こうな
 るとカメラを売却? という悪夢がよぎる。しかし今、換金可能な売れるカメラとなる
 とライカしかない。今夏は初めてM3を携行した。1954年発表のこのカメラは50ミリを
 付けて撮ることを前提にしている。普段レンズ一本といえば35ミリだった小生には狭い
 画角である。ところがM3の50ミリは気持ちいい。狭いなりに区切った風景が綺麗に見え
 る。勿論、フランスの素晴らしい風景が加勢していることは否定しない。とにかく、この
 カメラは売却構想から外れた。と、なると…。首都圏の不動産屋のようにカメラ売却話を
 持ち掛ける、川本さんには気の毒な事になるかもしれないし、二眼レフに交渉権が移る事
 も有り得る。最もレートが想定の範囲内なら、この交渉は存在すらしなくなる。
 つまり、まず心配することは為替の変動であって、川本さんとのやり取りではない。これ
 が結論では無かろうか?
 最後に映画「七人の侍」の中で村の長老が言う名言を紹介したい。野原武士から村を守
 るため侍を雇った農民が、自分の娘が侍に恋仲にならないか心配だと告白する。
 すると長老は「野武士が来るだぞ! 首を切られる前に髭の心配してどうする!」
 遠いフランスから川本さんのことを考えると、何故かこの台詞が脳裏から染み出してき
 た。アビヤント!


牽制球というかストレート勝負というか、まあカメラ売却に関してはあなたはお呼びじゃない
とセーヌの流れを見ながら考えられたんでしょう。・・・・・。


と、書いてたら新しいメールが入りました。(午後6時)。
もうそろそろソウル経由で岡山に着くようです。
蜂谷さん、毎日ホントにありがとうございました。
そして、お疲れ様せした。


最後に今届きました「銀輪の国から17(最終章)」を掲載します。

 フランスを夜9時に出発して27日午後2時半に韓国のインチョン空港に着いた。後一息
 で岡山だ。岡山行きが出発する20番ゲートは勿論、岡山県人が多いから回りは岡山弁が
 聞こえてくる。夕方6時20分に出発して7時半には岡山に着く予定だ。パリでラーメン
 や中華を食べているので、枯渇したような日本食への食欲は沸かないが、岡山空港から
 の帰り道、ロイヤルホスト吉野家、そしてグロスもある。そうだ、一番胃袋が欲してい
 るのはエスプレッソでないコーヒーだ。帰り道、ダメもとで富田町を通ろうか。いや、ガ
 ソリン高騰の昨今、グロスへ遠回りするために消費するガソリン代を温存しておこう。
 そして、そのわずかな節約金をグロスのコーヒー値上げ時に添加しよう。きっと寛大な
 川本さんはこの逸話に目頭を熱くするだろう。岡山の皆さん、帰ってきました。ご愛読、
 有難うございました。アビヤント!(完)